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感想『ジョーカー』:混沌へ身を投げろ 【ネタバレ注意】

どうも、黒輔です。

 

観るかどうか迷っていた映画『ジョーカー』、やはり観ました。バットマンの映画はおろか、予告編すらたぶんろくに見てないので、「バットマンの敵・ジョーカーが主人公の映画がなんか凄いらしい」程度の情報だけを手に。

 

んー凄かったですよこれは。醜いはずなのに、とても美しく仕上がっている。小説よりも奇な事実をそのまま映画にしているとでも言うか。それくらい、あれよあれよとアーサー・フレックは転落していく。ジョーカーはもちろん悪であることには違いない。しかし、何故こうも存在感を放ち、他人事でないように感じられるのか。荒んでいく都市 ーゴッサムティーの中で、ジョーカーは皆の心に潜んでいる。そして我々の住む現実でも、ジョーカーが登場するかも...

 

※以下ネタバレを含む感想/評価/レビューとなります。

映画 ジョーカー バットマン 約90cm×60cm シルク調生地のアートポスター 01 ホアキン・フェニックス ロバート・デニーロ ダークナイト トッド・フィリップス

 

 

主演ホアキン・フェニックスを観よ

ジョーカーといえば、『ダークナイト』のヒース・レジャーが有名です。自分は恥ずかしい事に未見なので比較などは出来かねるのですが、今回のホアキン・フェニックスはとても凄かった。

 

何が凄いかって笑い声。アーサーは突発的に笑ってしまう病気なのですが、「笑いたくないのに笑ってしまう」演技が凄かった。文字にするとスゲー陳腐になっちゃいますけど「 アァ↑ハハハハハハッハァー...ッ... アハハハハハ... ヒュゥゥゴフッゲフッ... アァ...アハハハハ」みたいな感じか。うん、伝わらない。でも序盤でいきなり「アッこの役者スゴ腕だな!?」って分からせられるのよ。

 

作中に一度だけ?かな、彼が周りに合わせて笑う所があるんですよね。バーのコメディショーの見学で、アーサーは周囲の観客が笑わないような所であの奇妙な笑い声を上げる。観客はその逆。次第に気づいたアーサーは周りに合わせて乾いた笑いを見せて行く・・・というシーン。見せ方もですが、「あ、笑い方違うんだな」と一発で分かる感じなのが凄かった。シチュエーションも相まって本当にゾワゾワしてしまった。

 

あ、もう一つヤベェなと思ったのが体型だ。貧困の最中にいるのもあって、作中のアーサーは骨と皮だけのガリガリなんですが、CGなどではなく、ホアキン自身があの体型になってるらしいんですね。あそこまで痩せるって、ムキムキになるより逆に難しいのでは・・・ それでいて、こちらに背を向けて靴をいじってるシーンとか何故だか怖いですからね。役者の気合を感じました。この映画ほど、字幕版のみの公開で本当に良かった、と感じる映画は無い。

 

分断される社会、見捨てられる弱者

とても怖かった。仕事をクビになったアーサーが起こした事件がきっかけで、不満の溜まっていた低所得者層が彼に同調、怒りが爆発。彼らはピエロのお面を付けて抗議運動を始める。一方で高所得者層の代表的存在、トーマス・ウェイン(大企業社長で次期市長候補)は、おそらく悪い事はしてないのだろうが、市民にとって頼りない感じなのは明白。そして打ち切られる社会保障・・・

 

冒頭の時点で不穏だった都市が、事件がきっかけでどんどん転がり落ちていく。貧困層と裕福層の対立、権力への不満、同じ格好をして団結と意志を示すデモ隊。あまりにも恣意的?でも、これは確実に、現実世界のどこかで起こっている事だ。

 

ウェインは批判するコメントを見るとこの映画はある意味で成功してるんだなと思う。確かにウェインが反感を買う理由は分からなくもないが、だからといって(防衛だったとはいえ)衝動的に人殺しをしておいて平気なアーサーが善人なわけないし、そもそも見ず知らずの人たちが勝手に「謎のピエロの復讐者」として持ち上げてるだけってのが何とも・・・「(このメイクに)政治的な意図はない」って言ってたし。

 

アーサー自身の境遇もだいぶキツい。無敵の人ってやつなのかな。周辺の対応もツラかったが。せっかく子どもを笑わせてあげたのに「息子に構うな」はひどいよオバサン・・・ほかにも話を聞いてるようで聞いてないカウンセラーとか、「ただの事務員だから」と突き放す人とか、あまりにも社会が冷たい。そのすべてがあのクライマックスに向かっていく構成自体は素晴らしいですが。これ、自分のメンタルが弱っている時期に観たらもろにダメージを喰らっていたと思う。

 

もしかしたら、マジで影響されちゃう人も出てきちゃうのでは。現代日本だとあんまり激しいデモとかやるイメージないけど、アメリカみたいに貧富の差が分かりやすい国だと結構ヤバそう。何かしらの事件とかホントに起きるのでは?それくらい恐ろしかった。危険な映画です。

 

境界線はどこにある? 

 この映画は、さまざまなモノの境界を分からなくさせるように感じました。どこからどこまでがAで、どこからどこまでがAでないのか?すべては曖昧になり、人々は混沌に陥る。しかし、秩序が善で混沌が悪だとだれが決めたのだろうか?

 

まず分からないのは、この映画のどこからどこまでがアーサーの妄想なのか?ということ。物語序盤で司会者マレー(ロバート・デ・ニーロ)と共演しているシーンや、黒人のシングルマザー(ザジー・ビーツ、アメコミ的にはデップー2のドミノ)と仲を深めるシーンは彼の妄想でした。前者はまぁそうだろうな~と思ってたけど後者も妄想だったとは!「なんか急に睦まじい感じになってんな・・・」とは思いましたが、そこで何故に気づかなかったんだぼくは!

 

恐ろしいのは、この映画の全て・・・というか、最後の精神病院でカウンセラーと話してるところ以外は全部アーサーの妄想だった、というオチだったりして!っていう解釈が有り得ることなんですよ。まあそうなると色々おかしいかもしれませんが。あるいは「ジョーカー」の作り話っていう線もアリかもしれません。

 

で、仮に映画での出来事が事実だとして、アーサーの出生に関する秘密も、「どっちともとれる」ようになってると思うんですよ。おそらくはアーサーの母ペニーが精神障害で、アーサーは養子というのが「本当」なんだろうけど、でもトーマスが色々でっちあげて病院にぶちこんだんじゃないの?っていう見方もできなくはないわけで。結局、アーサーは自分の手で母を殺してしまったから、分からずじまいだけど・・・

 

一番怖いのは、正気と狂気、そして善と悪の境界すらもわからなくなっていくこと。まあ、アーサーが「正気」でも「善」でもないのは確かだろう。だからといって「狂気」「悪」と断じる、これもまた適切といって良いのだろうか?その断絶と無関心が彼に、そして彼らに引き金を引かせたのではないだろうか?

 

体面を取り繕うとする同僚とか、話を全然聞かない上司とか、アーサーをダシにして笑いをとろうとしてる(ように見える)マレーとか。あるいは、トーマスがもう少しマトモに相手をしてあげていたら。誰かがもう少しだけ、彼の存在を認識していたらな・・・彼が「本当は優しかった人物」にしろ、「実は元から狂気を内在していた」にしろ、こんな凶行に走ることはなかったのではないか、と思うと、なにが正義なの?って思わざるを得ない。

 

そうやって線は消えていって、混ざり合い、炎が吹き上がる。このカオスにとても引き込まれる。危険な映画だ。News Week誌の記者は「この映画はいわば、ガソリンをたっぷり浸した布の山にマッチの火を近づけるようなことをしている。布を炎上させずに、どこまでマッチを近づけられるかを試しているかのようだ。」と評している。他にも「絶賛してはいけない」という人も。

 

確かにアブない映画だが、僕はあえて言ってみる、そのカオスすらも楽しめ!牙を抜かれた秩序より、混沌の中に立ち上がってくるものもあるはず。そして是非、多くの人が心をかき回されて、様々なことを感じてほしいと思っている。この映画は決してJOKEなどではないのだから・・・

 

Call Me Joker

Call Me Joker

  • provided courtesy of iTunes

 

追記

・小人症のおっさん、本当に殺されるかと思った。今にアーサーが襲い掛かるぞと、一番心臓がドキドキした。あの人も相当周りにからかわれていたりして、恐らくは普段から大変な人生を生きてると思うけど、彼は「ジョーカー」にはならないんじゃないかなぁ。と思うのはこの映画の「主観」に騙されているだけ?彼の言動は、皆がみんな優しくないわけじゃないし、ジョーカーになるわけじゃないぞという反証にも感じられました。なので、「誰でも彼になれる!」みたいなコメント見ると「ホントに?」と疑念を抱く。

 

・作中でアーサーは笑ってばかりだけど、垂れたメイクが涙のようで、やはり彼の本心はそうなのかな・・・とも思う。本心とかあればの話だけど。

 

・平日の夕方に観に行ったが、男子高校生や女子高校生の集団がいた。これは少し意外だった(というと失礼かもしれないが)。どういう感想をもったのか聞いてみたかった。

 

・引用されているチャップリンの映画や、デ・ニーロが出ている映画『キング・オブ・コメディ』『タクシードライバー』、バットマン映画の過去作など、事前に観ておけばもっと楽しめたのかなーと思う映画がたくさんあって自分の無教養を悔いるばかりだった。それでも1本の映画として楽しめたし、ブルース・ウェインの名前出てきたときはちょっとテンション上がったけど。(バットマンとジョーカーが義兄弟という設定はマジかよ!って驚いたけど結局フリでしたね)Amazonで配信中だし観ていかないとね・・・

 

ここまで読んでいただきありがとうございました!

次は来月になるかもしれませんが、とにかくまた次回。